主要研究業績の解説(試作版)

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「業績リストを見ても、何がどうなのだか、すぐにはわからない!」 という人のために、自分の研究業績のなかで主要なものの要旨を、 ざっと書いておきます。研究には当然ながらストーリーがありますので、 研究業績リストとは逆に、過去のものから順に書いていきます。

保型形式に関するもの

まずは、最初の論文です。

Aoki, H., Automorphic forms on the expanded symmetric domain of type four, Publ. RIMS, Kyoto Univ. 35(1999), 263-283. (pubrims1.dvi)

原始形式を周期積分した像領域として、 4型有界対称領域のある種の拡張があらわれることが知られている。 本論文では、その領域上での保型形式とフーリエヤコビ展開について調べた。 具体的には、指数1のヤコビ形式について、対称領域上から拡張領域上への持ち上げが 存在することを示し、また、拡張領域における齋藤黒川リフトを具体的に記述した。

D3のときに書いた、最初の論文です。 ただ、拡張領域について具体的に調べた結果はそう多くなく、 楕円積分論から保型形式に至る道筋を、一般の原始形式で 行う作業(内輪で言うところの Saito Project)をしなければ と思っています。
それはともかく、4型有界対称領域の保型形式環の構造については、 私の指導教官の予想があり、大学院生のころは、その解決を 夢見ていました。が、そうはうまくいかず、あるとき、ある先生に 「とりあえず簡単な場合でうまくいくか試してみたら?」と 言われました。その結果が次の論文です。

Aoki, H., Estimating Siegel modular forms of genus 2 using Jacobi forms, J. Math, Kyoto Univ. 40-3(2000), 581-588.

種数2のジーゲル保型形式全体は次数つき環の構造を持つ。 群がフルモジュラーの場合、この環の構造は1960年代に 井草先生により決定されている。 本論文は、ヤコビ形式に注目することにより、 この定理に初等的でたいへん簡単な証明を与えた。

一番簡単な4型有界対称領域は、種数2のジーゲル上半空間です。 で、試してみると大変うまくいき、簡単に保型形式環の構造が 決定できました。 この構造は既に知られていましたが、初等的でたいへん簡単な 証明を与えたという点で、悪くない成果だと思っています。
なお、同様の証明は他のいくつかの群に対しても通用します。 また、そこから派生して、ジーゲル保型形式環について 若干の新結果が得られました。 これらについては研究会の報告集などを参照してください。 証明の細部を気にしないならば、これらの結果は 後述の伊吹山先生との共著の論文にほぼ含まれています。
さて、そうすると、当然、次に考えるのは「2番目に簡単な場合」です。

Aoki, H., The graded ring of Hermitian modular forms of degree 2, Abh. Math. Sem. Univ. Hamburg. 72(2002), 21-34.

種数2のエルミート保型形式全体は次数つき環の構造を持つ。 ここでは特に、ガウス数体上で、群がフルモジュラーの場合を扱う。 この環の構造は「Symmetric」な部分については、既に Freitag 先生 などによって決定されていたが、全体の構造は未決定であった。 本論文は、保型形式のフーリエ・ヤコビ展開とヤコビ形式に 注目することにより、エルミート保型形式環の 構造を(ほぼ)決定した。(厳密には生成元を与えた)

2番目に簡単な4型有界対称領域は、種数2のエルミート上半空間です。 で、これまた試してみるとかなりうまくいき、すぐに 「構造決定まであと一歩」の状況までいきました。 ただ、最後のひとつの保型形式(Skew-symmetricなもの)がうまく 構成できずに悩んでいたのですが、ある先生に「君の論文(前述) に関して、こんな面白い定理を見つけたよ」と言われたときに、 それがこの論文にも応用できるとわかり、ゴールにたどりつきしました。
なお、同様の証明はアイゼンシュタインの数体に対しても通用しますが (しかしかなり複雑)、既知の結果を越えるものではないと考え、 談話会で少し話した程度です。
さて、ここまでくれば 「さあ次は3番目に簡単な場合…」となるのですが、そうは簡単にはいきません。 いくら最初の証明が簡単でも、次元が増えるとだんだん計算が複雑に なってきて、さらなる工夫が必要になってきます。 そこで一旦方針転換して、別のタイプの保型形式への応用を考えてみました。

Aoki, H., Estimate of the dimension of Hilbert modular forms by means of differential operator, Automorphic forms and Zeta functions (立教大学, 2004), Proceedings of the Conference in Memory of Tsuneo Arakawa, World Scientific, 20-28.

いくつかの判別式が比較的小さい実2次体上のヒルベルト保型形式の 環構造について、既知の結果の別証明を与えた。 本論文の証明は微分作用素を利用して初等的な計算で行われており、 既知の証明と比べて非常に簡単である。

新しい対象は、ヒルベルト保型形式です。 2変数ですので、計算はそんなに難しくないことが期待されます。 アイデアは今までの論文と少々違いますが、初等的な方法で 次元を評価することにより保型形式環の構造を決定するという 作戦は同じです。
ところで、保型形式の具体的構造をテーマに研究している ということで、 Borcherds 無限積についての解説を 行うことになりました。そのときの解説文は、 第1回保型形式周辺分野スプリングコンファレンスの報告集にあります。 Borcherds 無限積について日本語でさらっと読むなら 悪くないんじゃないかと思います。
で、せっかく解説したのだから何か新しいことを見つけようと、 試行錯誤してみました。 この時期までに、他にもいくつかの雑多な研究成果を 研究集会で発表していたのですが、次の論文で、 それらをうまく取り込んでいただけました。

Aoki, H. and Ibukiyama, T., Simple Graded Rings of Siegel Modular Forms, Differential Operators and Borcherds Products, Int. J. Math. 16-3(2005), 249-279.

種数2のジーゲル保型形式で、群がレベルが1から4の 合同部分群(Γ0(N))の場合に、 保型形式環の構造を記述した。 それらはみな、比較的単純で類似の構造を持つ。 とくに代数的独立でない生成元は興味深く、 Rankin-Cohen-Ibukiyama 型の微分作用素による表示や、 Borcherds 無限積による表示を持つ。

話は再び、ヒルベルト保型形式に戻ります。 ヒルベルト保型形式で主に研究されているのは 重みがすべて一致している場合なのですが、個人的には、 そうでない場合にも興味がありました。 以前の論文と同じアイデアで証明ができる部分についての結果が、 次の論文です。

Aoki, H., Estimate of the dimensions of mixed weight Hilbert modular forms, Commun. Math. Univ. St. Pauli. 57-1(2008), 1-11.

判別式が5および8の実2次体上のヒルベルト保型形式について、 重みの差が小さいいくつかの場合について、 それらがなす加群の構造を決定した。

アイデアは重みがすべて一致している場合とそう変わらず、 重みが小さい部分での保型形式の存在証明や構成が少々面倒な程度で、 証明方法に目新しい部分はありません。 そのため、しばらくの間、結果を論文として発表していなかったのですが、 他の研究者から問い合わせがあり、ある研究テーマに応用できることが わかったので、結果をまとめて論文にしました。
また、似たようなアイデアは、ベクトル値の保型形式の場合にも 通用することがわかりました。 ちょうど、2005年の論文のベクトル値版です。 結果は、2005年の論文と同じで、レベルが小さいときには、 保型形式全体のなす空間は、 とてもシンプルな構造になっていることがわかりました。

Aoki, H., On vector valued Siegel modular forms of degree 2 with small levels, Osaka J. Math. 49-3(2012), 625-651.

種数2の(Sym2に関する)ベクトル値ジーゲル保型形式で、 群がレベルが1から4の 合同部分群(Γ0(N))の場合に、 保型形式のなす加群の構造を記述した。 それらはみな、比較的単純で類似の構造を持つ。

さらに、このアイデアは、ジーゲルパラモジュラー形式でも ほぼ同様に通用に通用することがわかりました。 通用するという事実は既に他の研究者によって知られていましたが、 以下の論文では、群を工夫することによって、レベルが小さいときには、 保型形式全体のなす空間がとてもシンプルな構造に なっていることまで示しました。

Aoki, H., On Siegel paramodular forms of degree 2 with small levels, Int. J. Math. 27-2(2016).

種数2のジーゲルパラモジュラー形式で、 群がレベルが4以下の場合に、保型形式環を記述した。 群をパラモジュラー群ではなく、その指数有限部分群におきかえて 考えることによって、それらはみな、比較的単純で類似の構造を持つ。

この論文は、2000年の論文もですが、保型形式のなす空間の次元の評価に ヤコビ形式が大きな役割を果たしています。また、その他の論文も含め、 保型形式の構成にもヤコビ形式は大きな役割を果たしています。 このヤコビ形式、今までの論文で使ってきたのは整数重み、整数指数の ものだけでしたが、今までの研究で、ヤコビ形式についての議論は、 実数重み、実数指数の範囲で通用するはずだと感じていました。 この点を詳細に調べたのが、次の論文です。

Aoki, H., On Jacobi forms of real weights and indices, Osaka J. Math. 54-3(2017), 569-585.

Eichler と Zagier によって定義された、 整数重み、整数指数のヤコビ形式を 実数重み、実数指数に拡張し、 その構造を精密に記述した。 また、得られた結果の応用として、 ジーゲルパラモジュラー形式のとりうる重みについて考察した。

さて、話はヒルベルト保型形式に戻ります。 考察の出発点は、2004年と2008年の自分自身の論文です。 その後もこれらの結果を拡張できないかどうか常々考えて いたのですが、2016年頃にかなり有望そうな方法を思いつきました。 ただ、その方法を大規模に実行するにはコンピュータによる計算が必要だということもあり、 その筋に明るい保型形式の研究者である竹森さん(当時、マックスプランク研究所研究員)に 共同研究を持ちかけたところ、思っている以上にうまく研究が進み、 次の論文となりました。

Aoki, H. and Takemori, S., The structure of mixed weight Hilbert modular forms, Int. J. Math. 30-2(2019).

判別式が5および8の実2次体上のヒルベルト保型形式について、 重みの差がある程度小さいいくつかの場合について、 それらがなす加群の構造を決定した。

重みが差が小さい場合…というのは2008年の論文と同じですが、 2008年の論文は極めて小さい1つか2つの場合だけ(でたまたま うまくいっている)なのに対し、 この論文は、数十個の場合でできているうえに、 一定の仮定さえみたせば(ここは未証明)原理的には 重みの差がいくつでも通用する方法を用いています。
その後はヤコビ形式に戻って研究中です。ただいま論文を1つ投稿中。

その他のもの

助手のときに、学生達の自主ゼミを見ていた関係で、 数理ファイナンスの研究室に、少しだけ関係していました。 次の論文は、そのときのものです。

Akahori, J., Aoki, H. and Nagata, Y., Generalizations of Ho-Lee's binomial interest rate model I: from one- to multi-factor, Asia Pacific Financial Markets 13-2(2006), 151-179.

この論文での私の仕事は計算の一部だけですので、多くはコメントできません。

以下、現在も研究中…………かなあ?(保型形式が専門ですので……)


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Last modified: Mon Nov 26 20:11:57 JST 2012