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研究の概要と今後の研究計画

私はこれまで非線形偏微分方程式に対する数値的な手法の研究及びそれ を用いた非線形現象の研究を行なってきた.非線形現象の解析には有効 な数値的手法の開発と適用が不可欠であると確信している. 今後はさらに解析的及び数値的な様々な手法に対する知見を広め, 非線形現象の研究をより積極的に行なっていきたい. 具体的には以下の2つが私 の大きな課題である:

(A) 解の爆発現象に対する解析と数値解析

あるクラスの非線形方程式は解の爆発現象 -- 与えられた初期値から出発した解が時間大域的に は存在せず,有限の時間(爆発時刻と呼ばれる)で特異性を生じる -- を有する. 私の大きな目標は,爆発現象を 正確に再現することのできる数値計算法を構築することである.

果して近似問題の解によって元の爆発現象を再現することができるのだろ うか? 通常の近似定理は解が有限にとどまっている時にしか成立しないため それだけでは不十分である. 上の疑問に -- 爆発時刻という限られた情報に関してではあるが -- 答えたのが論文リスト中の[gif], [gif]である.今後は他 の様々な情報が近似問 題によってどこまで再現されるのかを解明していきたい.

さて,爆発現象の数値計算による再現のためには上の疑問に答えるだけではなお 十分ではない.無限大に発散する量を扱わねばならないために 様々な数値的な不具合に直面するからである.現在までに Berger & Kohn や Budd et al. (論文[gif]の文献リスト参照)など多くの研究 者によって種々 の優れた数値的な工夫がなされてきてはいるが,それらの工夫の理論的な研究は 十分ではなく,その正当性が保証されているとは言えない.私はこれらの技術の 正当性を明らかにするとともに, その他様々な数値的な手法(領域分割計算や多倍長計算など)との融合をはかり より優れた数値計算法を構築したいと考えている.

現在具体的に考察しているのは以下の非線形放物型偏微分方程式に対する爆発問 題である:

displaymath123

displaymath125

ここで, tex2html_wrap_inline127 は実パラメータ,uは実数値関数で,適当な初期値・ 境界値の下で考える. 前者は平面曲線の曲率運動を記述する方程式で あり,後者は流体力学やプラズマ物理学の基礎方程式のある特殊解が満たす方程 式である. これらの方程式は,タイプ IIと呼ばれる非常に複雑な特異性を生じる解を持 つ.この複雑な特異性を捉え得る数値手法の開発が当面の目標である.

(B) 自由境界を持つ現象の解析と数値解析

結晶成長など様々な自然現象が自由境界問題としてモデル化されている.そこで, こういった現象の理解のためには自由境界問題の解析および数値計算手法の構 築が重要である.

私はクリスタライン・アルゴリズムとよばれる方法による自由境界問題の数値解 析 を行ってきた(論文リスト中の[2]〜[5],[7]).このアル ゴリズムは結晶成長の研究を精力的に行っている数学者 J. Taylor によって提 案されたもので,儀我らの一連の優れた研究(論文[2]〜[5], [7]の文献リスト参照)により,その有効性が示されてきている. しかしながら, 数値計算手法としてのこの方法が完全な成功を治めているのは,自由境 界が2次元空間内の曲線の場合だけだといってよい.曲面の時間発展に対す るこのアルゴリズムによる数値計算は Taylor らによって試みられているが,ア ドホックな工夫に頼る部分もあり,未だ完成していない. そこで私は3次元問題に対するクリスタライン・アルゴリズムによる -- 理論 的に正当な -- 数値計算手法の完成を目指したい. さらには,この数値手法をもとに,雪の結晶成長など,3次元的な効果が重要と 思われる問題に対する数理モデルの構築を行いたいと考えている.




2000年 9月26日 火曜日 18時44分17秒 JST