調和平均とは
調和平均とは「逆数の平均の逆数」です。
これにどのような由来があるのか、私も調べたのですがよく分かりません。
推測するに、次のようなことではないかと思います。
「仕事算」というものを御存知でしょうか。別の所にも書きましたが、
私は以前塾で教えていたので、
小学生が受験のために勉強する○○算というものにちょっと詳しいのです。
それはともかく、仕事算とは次のような問題に対する解法です。
「ある一定量の仕事があります (ペンキ塗りや荷物運びでも想像してください)。
太郎君が一人でやれば3時間で終わる仕事です。
また、次郎君が一人でやれば6時間かかります。
二人で協力すれば何時間で終わるでしょうか」
これを解くには次のように考えるでしょう。
太郎君は1時間で仕事の 1/3 を済ますことができる。
次郎君は1時間で仕事の 1/6 を済ますことができる。
よって、二人で協力すれば、1時間で仕事の (1/3)+(1/6) = 1/2 を済ますことができる。
したがって、2時間が答えである。答えはこれで良いのですが、
太郎君と次郎君の「平均的な」能力の持ち主が一人で仕事をするならば、
4時間かかることになります。よって、
3 と 6 のある意味での平均が 4 であると考えられます。
これがまさに調和平均を計算していることになっています。
高校で 「相加平均≧相乗平均」 という事実を習います。
ちょっと進んだ参考書なら
相加平均≧相乗平均≧調和平均
が載っていると思います。二つだけでなく、
一般に n 個の平均について成り立つ公式です。岩波の数学辞典 (p.1048) には、
これらの平均を特別な場合として含む一般的な平均の概念が解説してあって、
面白く思いました。
付記 : この一般的な平均については、
以下の文献で詳しく扱われています。
G. H. Hardy - J. E. Littlewood - G. Polya, Inequalities, Cambridge
Univ. Press, 1952. (訳本 : 細川尋史訳、不等式、シュプリンガー)
もう一つ、調和平均が登場する問題の例について。
「行きは時速4km、帰りは時速6kmで歩いた場合、平均時速は何kmですか」
平均時速とは時速の (相加) 平均ではなく、
全体の距離を全体の時間で割ったものですから注意が必要で、
答えは時速4.8kmになります。時速4kmで歩いた時間の方が長いので、
答えは時速5kmよりも遅いのです。この 4.8 という数は、4 と 6 の調和平均です。
その後の調べで、調和平均という言葉は音楽の世界に由来するらしい、
ということが分かりました。考えてみれば、
調和 (harmony) という語感から当然のことです。
ちなみに、調和解析も音楽の世界と密接に関係します。
さて、ピタゴラスは二つの弦の長さが簡単な整数比であるとき、
発する音がよく調和することに注目しました。
最も単純な比は 1:2 ですが、
このとき二つの音は (高さの異なる) 同じ音のように聞こえます。
例えばそれが「ド」の音だとしましょう。
このとき、二つの弦の長さの相加平均
3/2 の長さの弦が発する音は「ファ」であり、
調和平均 4/3 の長さの弦が発する音は「ソ」です。
これらの音は非常に良く調和し、
その関係を基本として音階が構成されます
(音階について詳しいことはこちら)。
余談ですが、簡単な整数比が音の調和を産むことに感動したピタゴラス教団が、
無理数の存在を否定しようとしたことは有名です。
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